眠るところを見ていて欲しいファンタジーとか

 昔はヘッドフォンにサングラスじゃないと電車にも乗れず人混みも歩けなかったのだけれど、修行の一貫として他人の話し声を聞くようにしてみた結果、割合に音なしで出歩く耐性がついてきた。
 というわけで忘れがちになっていたのだけれど、やはり困った時のヘッドフォン。非常に苦しい時に再活用してみると、圧倒的なバリア力で大変助けられた。それにしても、グラサン、フード、ヘッドフォンという、ヒップホップかぶれの爆弾魔みたいな格好で仮にも会社員をやっていた時期があったというのが恐ろしい。日本社会は寛大である。美しい国!
 わたしは美術館のように音がなくてポカンと開いた空間が非常に苦手なのだけれど、うるさければ良いかというと全然そうではなく、要するに静かだと音声がレーザービームみたいに脳に突き刺さるのが耐え難い、ということなのだから、居酒屋なんかで醜いヤツらの醜い言語が耳に入るのはどのみち拷問である(反社会的発言)。みっちり空間を埋める音圧みたいなものは大切だと思う。
 普段、ほとんどクラブミュージックしか聞かないのだけれど、それは単に音楽の素養がないこと、踊れれば良いと思っていることに加えて、圧がずーっと維持されてくれるからでもある。TVのクイズ番組などで、声が聞こえては困る人がヘッドフォンでハードロックか何かを聞かされているけれど、あれと同じようなものだと思う。
 EDMが一番眠れる。アンビエントとか色っぽいディープハウスとかよりゴリゴリのエレクトロハウスみたいな方がむしろ眠れる。
 このモードで公共空間でうたた寝してハッと目覚めるとまだ自分が生きていて世界も続いている感じに、素晴らしい多幸感を感じる。これは本当に飛べる。できれば道で転がって寝たいけれど、すぐ通報されるので寝られない。カフェとか駅のベンチくらいが良いと思う。
 「自分が寝るところを見ていて欲しい」というファンタジーはかなり根深いのだけれど、あまり一般的ではないのだろうか。わかります? わかりますよね? わかりませんか。
 そういえばこの間、飲み友達に対する定期セクハラで「ホテル誘って下さいよ~断るから」というのをやっていたけれど、その時の返しの一つに「行って速攻寝たりね」というのがあり、しかしはっきり言って、速攻寝るのはまったくもってアリであって、極私的にはそれこそ理想と言って良い。正確には、わたしが先に寝たいので本当に速攻だと困るのだけれど、まあ大体それでアタリである。余計なことはごちゃごちゃしないで貰いたい。わたしが寝るからちゃんと見張りをしておいて欲しい。そして目覚めたら「お休みの間、世界は平和でした。ご安心下さい」と報告して欲しい。ご苦労ご苦労。大体「行って寝て起きて帰ってくる」というのはまったくもって正当なホテルの使用法なのだから、わたしの発言は至って健全であり、変な邪推をする世の中の大人の方が汚れている。(注:妄想です。ホテルには行っていません)
 ここから考えるに、公共空間で眠るというのは世界全体に見守られるようなものだろう。これほど安心なことがあるだろうか。全世界がわたしの子守り! 眠って起きてまだ無事だということは、わたしが世界に愛されている証明と言って良い。「お前はここにいて良いのだ」というお墨付きを得るようなものである。ただし、大体の人は実際にはそこまで愛されてもいないので、本当にふしだらにあちこちで寝ると、起きたらお財布をすられていたり、もう目覚めなくなる可能性があるので、他人にはお薦めしない。
 話が行ったり来たりするけれど、オッサンのセクハラと同様、酔ったわたしのセクハラ発言も甘えであって、こう打ったらどう返すのか? ラリーと掛け合いをどこまで続けられるか? クリアでじっくり攻めてからのスマッシュとか、ネット際のドライブ打ち合いとか、まあそんなゲームをして遊ぼうよ~、という幼児的欲求の表れだと思う。一ミリの反応もないままあっさりスマッシュが入っちゃったりしたらドン引きである。返せよ。いや敢えて返さない、無反応というボケもあるか。酔っぱらいは大体反応しないし。しかし皆が皆そういうアホな掛け合い漫才が好きなわけではないので、相手をよくよく選ばないといけない。持つべきものは、いくらわたしが絡んでも歯牙にもかけず焼酎飲んで競馬新聞読んでるオッサンである。ありがとう! 何度も何度もわたしをフってくれ! どうせ覚えてないやろ!
 ところで、ここのところお世話になっている某所では、お酒を飲むのに音楽がない。なぜないのか。あれは非常に不自然だし、踊れないし眠れない。ギャラリーだし、元々音のない前提の空間だから当然なのだろうか。そういえば学校の教室なども音がなくてシーンとしている。あれは非常に身体に悪いので椅子を取っ払ってバーカウンターみたいな机だけにして、音楽をかけて適当に身体をゆらゆらさせながら勉強すると効率的なのではないかと思う。そうでもないか。まあ最悪ダンスはうまくなりそうだし、痩せそうだから良いんじゃないかしらん。馬鹿でも身体が動く方がいい。飽きたら床で寝たらいい。学生のうちから床で寝る練習を積んでおけば、大人になってホームレスになった時に役立つだろう。

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